7月5日読書記録

小渕が総裁になったとき、ある文化人が雑誌に「毎日にあんな顔をみると思うとそれだ

けでうんざりする」と書いたことがあった。小渕はその記事を切り抜き、日記帳に貼り

つけた。それでもおさまらず、その文化人がテレビに出たとき、怒りを新たにした小渕

は、「こういう連中の税金を下げる仕事をしてるんだ。おらの商売も割に合わんな」と

親しい議員に打ちあけた。

 

 

 相次ぐ警察の不祥事に対して総理がもっと前面に出るべきだという意見も強いんですが。

小渕 いや、そこが問題になってるんですよ。「内閣総理大臣は警察を所轄する」条文

には書いてあるんです。所轄とは何ぞやといえば、指揮監督はしないけど監督はする

というんです。難しいですよね。それはだから戦前のことの反省で、戦後アメリカがつ

くった行政委員会がそうですよね。公正取引委員会にしろ、公安委員にしろ・・・。

 羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く、ですか。

小渕 ~中略~ そういう時代(戦前)に戻るわけじゃないけどさ、制度的に総理大臣

が内務大臣を指揮して警察を全部握って、人事権からなんからもってやっていけば、そ

うなりますよ。でもそれじゃいかんから第三者公安委員会をつくって、恐る恐るやっ

てるわけでしょ。その恐る恐るがいかんちゅうんだ、今度は。じゃ、権限与えるかとい

うと与えるとはいわない。だからこれも整理せにゃいかんでしょうね。

 

 

天文学的な不良債権をかかえた金融機関に対する湯水の如き財政出動を非難する「日本

はいつから共産主義国家になったのか」という共産党のなかなか気のきいた野次や、国

家の命運を決する重要法案の相次ぐ通過を批判する「小渕内閣は少数意見を圧殺する

ファシズム」という社会党のヒステリックな叫びもどこ吹く風と、小渕は口笛を吹くよ

うな気楽さで「ルビコン河」をずんずん渡っていった。誰になんといわれようと景気対

策と、二十世紀のことは二十世紀中に決着をつけるという過剰なまでの思いは、驚くほ

ど強固だった。ひょっとすると小渕は、総理大臣以外の大臣は似合わないと、ずっと

思ってきたのかもしれない。この推測がもしあたっていたとするならば、間違いなく小

渕は政界最大の怪人物に数えられる男だった。

 

 

凡宰伝 (文春文庫)

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